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長い旅の終わりに 
出発点に還りつく
そこは初めて出会う場所

​T.S.エリオット(1888~1965)

~四つの四重奏より

永遠のテーマであり
人生をめぐる旅​

 

​バッハのゴルトベルク変奏曲は、1741年に出版されたアリアと30の変奏による変奏曲です。

フォルケルが伝えるところによると、バッハのパトロンだったカイザーリンク伯爵が眠れない夜を快適に過ごす曲をバッハに依頼し、出来上がった長大な変奏曲をお抱え音楽家のゴルトベルクが演奏、バッハは伯爵からルイ金貨百枚を報酬として得たと言われています。演奏した人の名前と、バッハの得た報酬(金=ゴールド、山盛り=ベルク)をかけてゴルトベルク変奏曲と呼ばれるようになりました。

80分に及ぶ長大な変奏曲には、多くの数字の仕掛け、30の変奏に内包する喜び、哀しみ、嘆き、祈り。さらには宗教的要素やユーモア、フランスやイタリアの様式、作曲技法や鍵盤楽器の技巧の追求などが盛り込まれ、百科事典的変奏曲と言えるでしょう。

私は毎年この曲を演奏していて、これは人生をめぐる旅だと思うようになりました。

イギリスの詩人T.S.エリオットの詩にある「長い旅の終わりに出発点に還りつく。そこは初めて出会う場所」は、ゴルトベルク変奏曲について書かれた詩ではありませんが、その魅力を言い当てていると思います。

アリアに始まり長い旅(30の変奏)を経て出発点(アリア)に還りついたとき、そのアリアは最初に聴いたアリアとまったく異なって聴こえます。それは、30の変奏のうちに自身の内面の成長や変化が生じるからなのではないでしょうか?

演奏家と聴衆が、この曲を通じ自身の内面の成長や変化に心と耳をすますことができるのは、なんと素晴らしいことでしょう。

​ドイツ語で金を意味するゴールド、山を意味するベルク、演奏家にも聴衆にもさまざまなことを想起させる金の山。

ゴルトベルク変奏曲はそんな曲だと思います。

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